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沙織「タイが曲がっていてよ」

11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 11:24:06.47 ID:vcv+DdA2O
沙織「おかえりなさい、あなた。」

京介「あぁ、ありがとう」

沙織「お風呂にします?ご飯にします?
それても私にします?」

京介「…じゃー先に飯かな」

沙織「私じゃないんでござるか!?」

京介「バカか、お前は。それより飯だ、飯にしてくれ」

沙織「うー、酷いでござる~、京介氏にバカって言われたでござる
ショックで立ち直れないでござる~。」

京介「はいはい…、てかお前その格好!!」

沙織「よくぞ気付いてくれました!
漢のロマン裸エプロンでござる!!」
12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 12:06:22.14 ID:vcv+DdA2O
京介「…、コートしまってきてくれ。
あと服を着てきなさい」

沙織「酷いでござる~、京介氏は男のロマンがわからないんでござるか!?」

京介「いやわかるぜ、俺も高校生のときに憧れたしさ、
でも常識的に考えてだなぁ」

沙織「…似合ってますか?」

京介「あぁ、とっても似合ってるよ。
そういう気分だったらガバッといっちゃいたいくらいにな」

沙織「///」

沙織「そうでござるか、ならもういいでござるよ
京介氏、愛してるでござるよ」

京介「俺もだ、愛してる。」

ちゅっ

沙織「…ありがとうございます」

沙織「で、では早速ご飯の支度を…」

京介「おう」

京介「にしてもとんだ箱入り娘だな…
非常識にも程がある、薄い本とかエロゲの影響受けすぎだろ…。


30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:05:36.45 ID:dtuFfnRW0
身体が左右に軽く揺れる感覚。
ああ、違う。俺が揺れているんじゃなく、誰かに揺らされているのか。

そして、俺はこの手を知っている。

「起きてください、京介さん。もうお昼ですよ?」
「うっ、眩しいな……おはよう、沙織」
「はい、おはようございます、……アナタ」

言って沙織は頬を赤らめた。
こっちだってまだその呼ばれ方には慣れちゃいなかった。
とは言え、恥ずかしいなら止めれば良い、なんて口が裂けても言えやしない。

そう、俺こと高坂京介と槙島沙織は1週間前、めでたく結ばれ、契りを交わした。



31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:11:08.19 ID:dtuFfnRW0
「あ゙ー、寝すぎた」

俺は頭をポリポリと掻きながらあくびをかみ殺し、ベッドから這い出た。
枕元に置いてあるデジタルの目覚まし時計は11時を示している。

「昨日は遅くまでお仕事でしたから」

沙織はそこで一旦区切って続けた。

「さ、少し遅いですけれど、朝ごはんの用意ができております」
「ありがたいねえ。今日は真っ黒なトーストじゃないだろうな?」
「もう、京介さんったら……」

沙織はあまり料理が上手ではなかった。
中学の頃から親元を離れて暮らしていたと聞いていたので
正直期待していたと言えば嘘になる。
が、本人は至って真面目にやっている。
まだお互い若いんだし、これからいくらでも上達するだろうよ。


32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:17:28.90 ID:dtuFfnRW0
ダイニングのテーブルには、サラダ、トースト、卵焼きと
シンプルながらヘルシーな朝食が用意されていた。

「おっ、美味そう」
「見た目だけじゃありませんよ?」

まだ先ほどからかった事を気にしているのか、少し頬を膨らませ
責めるようなジト目で、沙織はこちらを見ている。

「んじゃ味わってみますか」

そうして俺達は、いただきますと手を合わせて遅めの朝食を摂る運びとなった。

「お、んまい」
「そ、そうでしょう!?」

沙織は強がってはいるが明らかに嬉しそうにこちらを見ている。
同時に安心もしているようだ。やれやれ、そんなに気にする事もないんだがなあ。
まぁ俺がからかうのがいけないんだろうが……沙織が可愛いからつい、な。


33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:20:49.23 ID:dtuFfnRW0
「あー、そう言えば今日って……」
「はい、そうですよ。桐乃ちゃんと、瑠璃ちゃんが来ます」

やはりそうだったか。

「? なぜそんなに嫌そうな顔をしていらっしゃるのですか?」
「いや、そんな顔してたか、俺?」
「はい、それはもう」

嬉しそうに言われても反応に困る。

「嫌って事はないけどさ……昨日の残業で疲れてるからかなあ」
「ふふっ」
「何笑ってるんだ?」
「いえ、相変わらず素直ではないのですね」

放っておけ。
ああ、今確実は俺は嫌そうな顔をしているな。
沙織をからかうのは好きだが、その逆は嫌いなのである。
贅沢者め。


34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:25:29.64 ID:dtuFfnRW0
そんなこんなで和気藹々と朝食を食べ終わり、後片付け。
料理は沙織がやると言って聞かないので、
せめて皿洗いは俺が担当する事にしている。

「……」
「……」
「……」
「……あー、沙織」
「は、はいっ!?」
「いつも言っているが、あんまりジロジロ見るなよ」
「な、なぜお分かりになるのでしょう……」

視線なんて物理的には何もないようなものだが刺さるものは刺さる。
沙織の料理の腕があまり良くないと言った俺だが
俺自身、家事が得意な訳ではない。
だから監視されているような気分になってしまうのだ。
しかし沙織にはカッコイイとこだけ見せたいので、
皿を洗うところを見られるのは正直居心地が悪い。

37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:30:04.17 ID:dtuFfnRW0
「そうは仰いますが」

キュッとお湯を止め、手を拭いて皿洗い終了。

「男の方がキッチンにいる姿を見るのは……なんと申しますか、心がぽかぽかします」
「な……」

恥ずかしがり屋のくせに、こういう台詞を臆面もなく本人に言えるのは
やはり沙織がお嬢様だからなんだろうか?

「でもまぁ、確かに、沙織がキッチンで料理作ってるの見ると、イイなぁと思っちまうのと同じか」
「そ、そんな事を思っていらしたのですか?」

沙織は顔を紅くして下を向いてしまった。
ふっ。俺を照れされた報いよ。

「でも」

俯いたまま、ボソッと呟くように。

「そう思って頂けて、とても嬉しいです」

カウンターで真っ赤になったのは俺の方だった。


38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:39:02.52 ID:dtuFfnRW0
気まずいような、くすぐったいような沈黙を破ったのは携帯電話の振動だ。

「沙織、鳴ってるぞ」
「はい。メールですね……あ、桐乃ちゃんからです」

そう言えば、沙織は今では桐乃と瑠璃(黒猫の事だ)を本名で呼ぶようになった。
何ヶ月か前にいつものメンバー4人で集まって俺達が結婚する事を決めた時からだと思う。

『きりりん氏、黒猫氏。今日はお2人にどうしても報告せねばならない事がございます』

そう言って、沙織は牛乳瓶の底のような眼鏡を外し、居住まいを正して。

『私、槙島沙織は高坂京介さんと結婚する事になりました』

本当は男である俺の口から言うべきなんじゃないかと俺は2回ほど沙織に念を押した。
が、沙織は頑として譲らなかった。

桐乃と黒猫の表情は、硬かった。
沈黙が部屋を占拠して、息をするのも苦しかった。

「……そう」


39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:44:37.79 ID:dtuFfnRW0
まず口を開いたのは、黒猫だった。

『まぁ、貴方達が付き合っていたのは知っていたから、
 いつかこういう日が来るのかしらとは、思っていたけれど』

しかしそう言ったきり、また口を閉ざしてしまう。
そしては桐乃は。

『……』

少し肩が震えているようだった。
前髪から覗く額や目の周りはやや青みがかっているようなのに
頬や耳は紅潮しているかのように見えた。
膝の上に載せられた小さな拳は真っ白になるほど強く握られていた。

沙織は口を開かず、ただ、手を床について、下を見ている。

どのくらい時間がたったのか。ようやく口を開いた桐乃から発せられた言葉は
殺気さえ孕んだような

『おめでとう』

の一言だった。


40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:50:27.20 ID:dtuFfnRW0
そして一拍の間をおいて、桐乃は立ち上がり、俺を指差して叫んだのだった。

『今からこの部屋は女子専用! 男のアンタは出てって!』
『な、なんだと?』
『良いから出ていきなさいよ!変態!キモっ!ウザっ!』
『お、お前なぁ……』

救いを求めるように黒猫に視線を移したが、黒猫はため息を1つ零すと
桐乃に同調するように言った。

『そうね、貴方は今すぐにこの部屋から、いえ、この家から消えなさい。それが身のためよ』
『く、黒猫……?』
『京介さん、私からもお願いです。話が終わりましたら連絡いたしますので』

沙織にまでそう言われてはどうしようもない。
俺は財布と携帯電話だけ掴んで家を出た。

雰囲気が雰囲気なら、ガールズトークってヤツで盛り上がるんだろうけど
そんな空気とは無縁だったよな……沙織、大丈夫かな。


41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:51:30.15 ID:GLfiHVi4O
妹を心から愛している俺にとってはこの作品のアニメ化には憤りを隠せない

仮にけいおん並みに流行ってしまったら
マスゴミの影響で妹ブームなるものが来てしまう

「妹」というジャンルの投げ売りはやめて貰いたいね。

そして世の中には「妹萌えーwww」とかほざくリア充や妹系を自称するスイーツ(笑)どもで溢れかえる

俺が妹に告白しても「どうせあのアニメの影響でしょ?」の一言で一蹴されてしまう。
俺は生まれる前から妹を愛しているのに……

俺の愛を貰ってお腹をぷっくりと膨らませた妹が枕元でちょこんとおすまししている―そんな未来を描く俺の夢は―今ここに潰えた……


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 17:55:17.36 ID:dtuFfnRW0
行くアテもなく、しかし、俺は思い当たって、歩を進めた。

そこは一軒の和菓子屋。幼馴染の家だった。

『あら、京介ちゃん』

出迎えてくれたのは麻奈実のお母さん。この人も昔から俺に良くしてくれた。

『麻奈美ー、京介ちゃんよー』

大きな声で愛娘を呼び出すおばさんの姿に俺は何か一抹の寂しさを覚えてしまった。

『あ……きょうちゃん……』
『よぉ。ちょっと話がしたくてさ。今、時間あるか?』
『うん』

通されたのは居間。もう昔のように部屋になんて上がれない。

『単刀直入に言うぞ。俺、今度沙織と結婚する』
『そっか……』

返事をする麻奈美の目にはうっすらと光るものがあった。


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:01:07.43 ID:dtuFfnRW0
俺は幼馴染の見せた涙に何も言う事はできなかった。
しかし、麻奈美は涙を溜めたまま、笑顔でおめでとうと言ってくれた。
あの妹とは大違いだぜ。全く。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね。

『でも、ごめん、きょうちゃん。今日は帰って……?』
『……わかった。その、元気でな』
『うん、きょうちゃんも。沙織さんと、お幸せにね。結婚式には絶対呼んでね』

小さく、ハッキリと頷いて居間の戸を滑らせるとそこには麻奈美の弟、岩男がいた。

『何してんだ、お前は……』
『な、なんでも!』

そう言って岩男は2階へと駆け上がってしまった。

『なんだってんだ、アイツは……』
『あ、あとで私から叱っておくよ』
『はは、お手柔らかにな』
『うん』

そうして俺は田村屋を後にした。
もう裏の玄関から入ることはないのかもしれんと思うと寂寥感は拭えそうになかった。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:08:46.90 ID:dtuFfnRW0
結局、沙織からメールが来た頃には日付が変わっていた。

終電も終わってしまったという事で、沙織は俺の家にそのまま泊まるらしい。
が、俺の帰宅は果たして認めてもらえず、俺はファミレスから
駅前の漫画喫茶への移動を余儀なくされた。

一体、何を話しているのかねえ。

沙織へのメールの裏で、黒猫にメールを送った。

『To:黒猫 From:京介 なぁ、沙織を2人でいじめたりとかそういう事はないよな?』

すぐに返信がくる。

『To:京介 From:黒猫 貴方は銀河の果てまで吹き飛ばされてしまえば良いのに』

おいおい! 何いきなり怖い事を口走ってんだよ!

『To:京介 From:黒猫 冗談よ。安心しなさい。3人で思い出に浸っているだけだから』

ふーん、まぁ確かにそういう話って時々時間を忘れるよな。
でも、俺が帰ってはいけない理由にはならないと思うんだが……。


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:20:12.72 ID:dtuFfnRW0
翌朝、朝8時。ようやく出た帰宅許可だったが、
慣れない寝床で夜を越した俺にはなかなかキツイ。

『京介さん、ごめんなさいね』
『お前が謝る事じゃないだろ、沙織』

ごめんとは口にした沙織だが、その顔は裏腹に明るい。
桐乃、黒猫も、まるで一睡もせずに泣き明かしたかのような
ひどい顔だったが、昨日俺を追い出した時よりは
幾分スッキリしているような印象だった。

そしてあの晩を境に、沙織は、あのぐるぐる眼鏡を止めた。
ついでに呼び方も変わった。

とは言え、あの美人顔でオタクな発言をされると
ギャップに少々驚いてしまうのだが、そこは勘弁してもらおう。

「京介さん?」
「ああ、悪い。ちょっとボーっとしてた。で、黒猫のやつ、なんだって?」

瑠璃ですよ、と言って沙織は続けた。

「2人は夕方になるそうです。私の手料理を楽しみにしている、とも」
「そりゃ、気合入れて夕飯準備しないとな」

はい。と嬉しそうに頷いた沙織の顔にはやる気が満ち溢れているようだった。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:29:09.45 ID:dtuFfnRW0
結婚して1週間。いまだ新居は綺麗なままの新居……などと思ってもらっては困る。
むしろかなり散らかっている。
と言ってもこれは沙織が掃除のできないヤツ、という訳ではないし、
俺が脱いだ服をその辺に投げている訳でもない。

沙織が相当なお嬢様というだけあって、結婚式はかなり盛大なものだった。
いやすまん。かなりどころか、とても盛大なものだった。
この年になるとチラホラ友人の結婚式に呼ばれるからその違いはハッキリ分かる。

最近は紙切れを提出し、結婚を報告する葉書だけで終わらせるような
カップルも少なくないというのに、両家の親戚連中はもちろん、
お義父さん(いまだにそんな軽々しく呼べない)の仕事関係の友人たち
そして奔放初のお披露目となった沙織の姉であるところの『香織』さん。
新婦側の多さに、あの、うちの親父ですら軽くビビっていたのはここだけの話である。

そう言えば、香織さんと言えば、かつて沙織が『コスプレ』した『元キャラ』で、
当時、そのコスプレはサバイバルゲームをたしなむ男勝りってな感じの印象だったが
実際目の当たりにしたその人はやはり沙織並に整った目鼻立ちをしており
しかし、豪快で竹を割ったような性格をしていた。

47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:35:47.19 ID:dtuFfnRW0
話がやや逸れたように思われるかもしれないが、ちゃんと繋がっている。
要は、結婚式に出席してくれた方々からの贈り物の数が尋常ではなかったのだ。

これがかつて沙織が住んでいた、両親所有のマンションなら
まだ『倉庫』もあっただろうが、ここは若い2人にありがちな新居で、ぶっちゃけそんなに広くない。
それでも2LDKなのだから世間の平均にしたら広い方だと思うんだけどな。

しかし、この荷物の山を収めるには手狭。圧倒的、あるいは致命的に場所がない。
加えて共働きしているため荷解きも満足に行えていない状況だ。

「……このままじゃ、アイツらが寝るところねーな」
「あら? 泊まって頂くんですか?」
「お前だって最初からそのつもりだろうに」

京介さんは何でもお見通しなんですね、と沙織ははにかんだ。

当然だろ。お前の事だからな。まるっとお見通しよ。


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:40:50.79 ID:dtuFfnRW0
かくして荷解きと片づけが始まった。
さすがにアイツらと同じ部屋では寝れないからな。

まぁ、最悪。女性陣3人は寝室。俺はリビングに寝れば良いんだけどな。

どちらにせよ、できるだけ早くやらなければならないタスクである。
そもそも何を頂いたのかすら把握しきれていない現状もヤバイしな。

基本的に贈り物は沙織向けのものが多かった。

食器類、貴金属や宝石などのアクセサリー(俺が買った指輪より高いんじゃないか?)、そして、

「ベビーベッドって……気が早すぎんだろオイ」
「あらあら。期待されていますのね」

言いながら赤面している沙織である。
言わなきゃ良いのに。

まぁ、俺まで恥ずかしいから、なんだが。


49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:49:30.14 ID:dtuFfnRW0
でも、そうなんだよな。
結婚したからには、そりゃいつかは子どもを作る訳で。
自然な事だよね。いやそうなんだけどね。

脳裏に浮かぶのは去年の夏。
デートで海へ行ったのだが……。

『きょ、京介さん』
『お、遅かった……な!?』
『申し訳ありません……あまり慣れておりませんで……』

そこにいたのは美の化身かと見まがうばかりに神々しささえある沙織の姿だった。
ビキニではなかった。ちょっと期待してたんだけどね!
しかしそんな事が瑣末に思えるほど、沙織の水着姿は完璧だった。

水色のワンピースに短いパレオを腰から巻いている。
パレオが作り出すスリットからすらりと伸びた白くて綺麗な脚は
程よい太さで美しい曲線を描いていたし、
大きく開いた背中は透き通るように美しいし、
極め付けに窮屈そうにしている胸ははちきれそうなのだ。


50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 18:54:09.05 ID:dtuFfnRW0
『ど、どうでしょう?』

どうでしょうって。どうでしょうってお前さん。そりゃ最高としか言えないよ。
この時ばかりは自分の語彙の少なさを呪ったね。

『ありがとうございます』

照れてはにかむ沙織の姿はビーチのマドンナ(死語)だった。
ただ、他の男に見せたくなかったので、
もう2度と公共の海水浴場には行かない事にしたけどね。

そう。そんな沙織を抱く?
うわあ。思い浮かべるだけでヤバイぜ。
今日はこれから桐乃たちが来るんだからそれどころじゃないってのに。

「京介さん?」
「はいっ!!?」

突然呼ばれて声を裏返らせた俺を見て沙織は吹き出した。

「どうしたんですか? 手が止まっていますよ?」
「悪い悪い……頑張るよ」

全く、頑張って雑念を払わないとな。
精を出すのは片付けだけにしろってな。


59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 21:13:23.90 ID:dtuFfnRW0
1つ1つ包みを開封して中身を確認しては沙織に確認を取り
用途ごとに振り分けていく。
しっかし一体いくつあるんだろうねえ。
今日一日、いや半日で終わるのか怪しいもんだ。

「あら?」
「どうかしたか?」
「い、いえ、なんでもありませんわ」

沙織は箱のフタをそっと載せ、小走りに隣の部屋へ駆けて行く。

「?」

おっとこうしちゃいられん。さっさと片づけを進めないとな。
これもアクセサリーかよ。ダイヤにプラチナ?
しかも揃いでネックレスまで。
なんだかなぁ。自信なくなっちまうぜ、ホント。
あの時の事をちょっと思い出すな。

それは、そう。初めて沙織のご両親、槙島夫妻に会った時の事だ。

本当の金持ちは上ではなく、横にでかい家に住む。とは誰が言ったのだろう。
槙島家はまさしくそんな家だった。
こんなのゲームや映画の世界にしか存在しないとさえ思っていたんだけどな。


63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 21:58:50.94 ID:dtuFfnRW0
『さ、お入りください』

威容に圧倒されている俺の手を引いて門をくぐる沙織の手はひんやりと冷たくて
変に昂ぶっている俺の気持ちを少しだけ冷静にしてくれた。

まず玄関のドアを開けると広いエントランスが、なんて事はなかったが、
日本特有の狭小住宅と明らかに違う、ゆとりある空間の使い方だ。
調度品も全然厭味がなくて落ち着いた雰囲気を作り上げている。

そうか、こういう家に生まれると沙織みたいな子が育つのか、
なんて事を考えてしまうあたり、平常心とは言えない。

『高坂様、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ』

なんとリアルメイドの登場だ。いるところにはいるもんだねえ。
と感心している横で沙織は少し不機嫌気味だ。

『沙織? どうしたんだ?』
『いえ……』

否定する沙織だったが、明らかに怒っている。
これはハッキリ言ってかなり珍しい事だった。


65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 22:48:53.46 ID:dtuFfnRW0
ドアを開けるとそこには気立ての良さそうな婦人と、
穏やかな表情のナイスミドルが座っていた。

『これはこれは。よくいらっしゃいました。沙織の母でございます』
『ど、どうも。お初にお目にかかります。私は、こ、高坂京介と、申します』
『あらあら。硬くならないでよろしいんですのよ』
『そうとも。娘から良く話は聞いている。自分の家だと思ってくつろいでくれたまえ』

こういうシチュエーションでは大概父親は良い顔をしないもんだと思っていたが
どうやらそれは杞憂だったらしい。
少なくとも表面上は歓迎ムードなようだった。が沙織が噛み付いた。

『お父様、お母様! お客様が来たのに自分たちが迎えに来ないのはいかがなものでしょう?』

なるほど、さっきちょっと憤慨しているように見えたのはそういう事か……。
割とそういうトコ気にするんだな。

『お、おい。俺、いや私のことは良いから』
『良くありませんわ。京介さんは私の大切な彼氏なのですから!』

一瞬、空気が固まった。

『まあまあ。うふふ』
『はっはっは。大切な、か。見せ付けてくれる』

当の俺と沙織はゆでだこか、もしくは加熱したエビみたいに真っ赤だった。


67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:03:07.76 ID:dtuFfnRW0
それからは完全に会話の主導権を掴んだご両親のペースだ。
なんだか喋らなくて良い事までお互い口にしてしまった気がする。
そして意外だったのは

『私たちも、年をとった。香織は年に1回帰国するかしないかだからね』
『ええ。だから子どもは早めにお願いしますね。孫を抱くのが今の私たちの生きがいなのですから』

という発言だ。どうやらすっかり結婚するものと決め込んでいる。
ただ、俺はその時、一瞬だけ垣間見たのだ。

お義父さんの目が光ったのを。

娘を幸せにするだけの覚悟と経済的、社会的、社交的な力量。
当然それらを持ち合わせた上で娘と付き合っているんだろうな、と。

釘を刺されたように感じた。
圧倒的に持っている者の、言外の恫喝に、俺は身震いした。


68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:17:03.17 ID:dtuFfnRW0
沙織は、正真正銘のお嬢様で、俺は中流家庭の平民。
選ぼうと思えばいくらでも稼ぎの良い男、家柄の良い男がいるはずだ。
それでもコイツは俺を選んでくれる、と思う。
そう疑わないだけの時間、10年近い時間を一緒に過ごして、乗り越えてきたんだ。

じゃあ俺はそれに応えられるのか。心身を引き締めずにはいられなかった。

ふと気づくと、沙織が俺を見ていた。

『どうかしたのか?』

そう聞くと沙織はふるふると顔を小さく横に振って微笑んだ。

『私の使っていた部屋がありますわ。よろしければご覧になりませんか?』
『おお、そりゃ是非ともお願いしたいね』
『では参りましょう』

嬉しそうに俺の手首を掴む沙織の姿に、俺はコイツを幸せにしてやると、改めて強く思ったものだ。


69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:21:50.93 ID:dtuFfnRW0
「……懐かしいなあ……」

なんだかんだ言って良いご両親だ。
お義父さんボロ泣きしてたもんな。

「京介さん」
「んー、どうかした、か……?」

突然沙織の声に呼ばれて振り返ると、そこには綺麗なドレスを着たお姫様が立っていた。

「おま、その格好……」
「ふふ。どうです? 贈り物に入っていたのです」

ワインレッドのベルベッドに身を包む彼女はまるで女神だ。
流れるようなラインが沙織のスタイルの良さを上品に、そして強烈に表現している。

「すげー似合うぜ。ドレスも良いけど、やっぱ中身が最高だから」
「もうっ、京介さんったら……」

なんとなく、そんな格好をした沙織を見ていると。
なんとなく、1週間前の事を思い出して。
なんとなく、沙織の目が潤んで。


71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:30:25.35 ID:dtuFfnRW0
「沙織」
「はい」
「好きだ」
「私もです、京介さん」

なんとなく。
沙織の柔らかな唇に、唇を重ねた。

やがて、ほうっと息を漏らして沙織が離れた。
心臓が仕事しすぎなんじゃないかと心配になるくらい左胸の鼓動がヤバイ。
お互いに心なしか息が荒くなっている気がする。

「沙織……」

名前を呼んで、肩をつかむ。
ビクッと小さく震えて、けれどすぐに力が抜けて。

「……沙織……」
「京介さん……」

ピンポーーーーーーーーーーーーーーーーン

「…………あ゙?」

水を差された状況とは逆に、俺の怒りはMAXで燃え上がってしまったが致し方ない。
沙織はあからさまにガッカリした顔になっている。これはこれで珍しい。



73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:38:00.42 ID:dtuFfnRW0
俺は観念してカメラ付きインターホンを付けるとそこにいたのは例の2人だった。

『げっ』
「人ん家に来て第一声がそれか。早かったな」
『早いって……もう4時過ぎてるじゃん』

あれ? まだ15時前くらいかと思っていたがそんな事はなかったぜ。

『それで、いつになったら開けてもらえるのかしら、このオートロック?』
「ああ悪い。今開けるよ。ほいっ」
『全く』

それからややあって、玄関のベルが鳴る。

「よう、よく来たな」
「はぁ? 別にアンタに会いに来た訳じゃないし。ていうか早くどいてよ」
「……」

なんだろうね。コイツのこの態度は。なんだか昔を思い出すねえ。
懐かしくて涙が出そうだぜ。


74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:44:40.02 ID:dtuFfnRW0
「黒猫も、いらっしゃい」
「ええ。1週間ぶりね。と言ってもあの時はほとんど話もできなかったけれど」

2次会はあったが、どっちかと言うと新郎新婦の友人たちと騒ぐって言うより
新婦の関係者による質問攻めと、新郎の品定めみたいなものになったのは嫌な記憶だ。

「2人ともいらっしゃい。桐乃ちゃん、瑠璃ちゃん。来てくださって嬉しいです」
「沙織!」

俺が応対している間に先ほどのドレスを着替えた沙織が奥から出てきた。
そんな沙織を見るなり桐乃と黒猫は駆け寄った。

「沙織、大丈夫? あの男に変なもん食わされてない? いびられてない?」
「貴女の事だから大丈夫だと思うけれど、何かあったらすぐ連絡するのよ」
「いやだ、2人ったらもう……」

「いやいやいや。お前らなんつー会話してんだよ」

なんだか放っておくと話がエスカレートしそうな空気だったのですかさず止めに入る。
と、桐乃は気の立った猫のようにこちらを睨んだ。

「あのねー。何? この散らかりよう。沙織に家事押し付けて、
 自分はふんぞり返ってんじゃないでしょうね」
「そっ、そんな事しねーよ! 俺だって皿とか洗ってる!」
「あーやだやだ。マジキモイ。何? それくらいで得意面? 自慢ですかぁ?」
「ぐっ……」

相変わらずコイツは人の神経逆撫でするのが上手いよなぁ!


75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:53:09.64 ID:dtuFfnRW0
「口を動かすより手を動かした方が良いわね。沙織、手伝うわよ」
「あ、アタシもアタシもー」
「2人とも、ありがとうございます。助かりますわ」

そんな訳で我が家の初めての客に家の掃除を手伝わせると言う
なかなか申し訳なくもあり、情けなくもある状況になってしまったのだが
ぶつくさ文句を言いながらもしっかりやってくれる桐乃に
黙々と手を動かす黒猫の2人を見ていると良いコンビだと心底思う。

……ただ途中途中で、高価なものを見る度に
こっちを一瞥しては嘲笑するのが癪に障ったけどな。

そして夕食。沙織は宣言どおり、料理の腕を振舞った。
結果としては……満点とはいかなかったが、2人の先生からは
及第点ギリギリをもらったとだけ言っておこうか。

いや、別に不味い訳じゃないんだよ?
マズメシ嫁なんかじゃないからな?


76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:57:51.80 ID:dtuFfnRW0
で、その後は宴会になった。

桐乃はあんまり酒に強くない。良く笑うし、良く泣く。そう、泣く。
普段絶対人前で泣いたりしないヤツなのに、だ。
あやせが初めて桐乃と飲んだ時の動揺っぷりと言ったらなかったね。
ちなみに翌日には綺麗さっぱり忘れるから始末が悪い。

黒猫もあまり強くないらしい、が、ペースと量を弁えているので
桐乃のようにハメを外しすぎる事がない。
ある意味一緒に酒を飲むなら一番適任だろうな。

一番って沙織はどうしたって?
アイツはダメだ。完璧超人の旧姓・槙島沙織だが、やはり人には欠点があるもので。

沙織は、酒の量が一定のラインを超えると、脱ぐんだよ。
いや止めるのにマジで苦労するんだ……。
本人分かってるのに、結構酒が好きみたいでな。

俺? 俺はまぁ普通だよ。テンションが上がるだけ。
面白味がないとか言うな。軽く凹む。


78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/10(水) 23:59:25.64 ID:dtuFfnRW0
まぁ、そんな訳で、こんな4人が宴会である。
到底人様には(特に槙島家の関係者)見せられない様相だ。

「ちょっと、そこの変態! 今パンツ見たでしょ!」
「見てねぇ!」
「京介さぁん……聞き捨てならないですぅ……」
「沙織! 脱ぐな!」
「じゃあアタシが脱ぐ!」
「意味が分からんわ!」
「貴方が脱ぐなら私も脱ぐわよ」
「ぐぬぬ……それはヤバイわね……」

何がどうヤバイんだ。いや確かにヤバイけどな。
しかし見ていると酔った桐乃を黒猫は割りと上手にいなしているように見えた。

「きょーすけさーーん! もーう、ろこみれるんれすかぁー」
「うわわわ、沙織! バカ! 桐乃たちが見てんだろ!」
「らーってぇー」

本当に黒猫がいなかったらどうなってたのやら……マジで恩に切るぜ。


79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/11(木) 00:00:11.74 ID:vLAorgNV0
そんな乱痴気騒ぎは日付が変わっても続き、ようやく収束したのは午前も2時を過ぎた頃だった。
結局半裸になって倒れた沙織と桐乃を寝室にぶち込み、酒臭いリビングに戻ると
黒猫がソファにちんまりと座ってこちらを見上げていた。

「2人は?」
「ぐっすり寝てやがるよ。いい気なもんだ」
「そう」
「今日はサンキュな。お前がいたおかげで地獄の一歩手前で済んだ気がするぜ」

そう、と黒猫は落ち着いた声だった。

「お前は、あんまり楽しめなかったか?」
「いえ、そんな事ないわ。私がお酒を飲むのは貴方達とだけよ」
「ははっ、そりゃ光栄だ」

ほんのり朱が差したような頬。20を過ぎてなお、コイツの肌は桐乃の折り紙付きだ。

「沙織は」
「ん?」
「とても、幸せそうね」
「……お前にそう見えるんなら、嬉しいね」


80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/11(木) 00:01:35.44 ID:dtuFfnRW0
しんみりと、そしてしっとりした空気だ。
これは黒猫の人格に依るものだろうか。
コイツといると、昔から落ち着くのだ。不思議と、優しい気持ちになる。

「ねぇ」
「なんだ?」
「なぜ、あの時――」

そこまで言い掛けて、しかし、黒猫は

「いえ、なんでもないわ」
「お、おい。そこまで言っておいて」
「私もそろそろ寝ようかしら。貴方も寝たら? 明日も仕事なのでしょう?」

そう、日曜だが明日も仕事だ。正確には明日じゃなくて今日だけどな。

「ま、追求しても言いそうにないしな。寝るか」
「私と一緒に?」
「……バカヤロー」
「……冗談よ」

知ってるよ。

冗談じゃないって事はな。

「じゃあ、おやすみ、黒猫。いや、瑠璃」

少しだけ目を見開いて、黒猫はそっと微笑んだ。

「ええ、おやすみなさい。京介」


81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/11/11(木) 00:03:24.04 ID:vLAorgNV0
朝7時。女3人が起きてくる様子はない。
ま、特に問題はないだろう。
沙織には後でメールしとくとして……。

「きょうすけ……さん?」
「あれ、なんだ起こしちゃったか?」

眠そうな目を擦りながら現れたのは沙織。
明らかに寝不足風の顔だ。

「ご、ごめんなさい……寝坊しちゃって……」
「いいって。今日は日曜なんだしさ。まだ寝てろよ。もう出るし」
「そ、そんな」

家を出る前に、愛する奥さんの顔を見て、声を交わせる。
平凡でありきたり。でもそんな日常こそが、俺の夢見た幸せであり、
今ここにあるのはまさしくそれだった。

「んじゃ行ってくるよ、沙織」
「はい。気をつけていってらっしゃい、貴方」
「おう」

「あ」

ついっと滑るように俺との間合いを詰め、すと手を伸ばした。
沙織がふわりと微笑んで

「タイが曲がっていてよ、京介さん」

今日も、頑張れそうだった。

おわり
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