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澪「ムギをむぎゅぅとしたいな」

2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/14(木) 23:47:29.80 ID:PmjP6a7G0
澪「はあああ……」

律「どうした~?ため息なんて、澪らし……いか」

澪「何だよそれ?」

律「べ~つに~~~。で、何なのさ?」

澪「何が?」

律「ため息の理由だよ」

澪「ああ……」
4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:05:26.80 ID:hrlQBSWc0
律「…………ムギをむぎゅぅとしたいって~~!!!?」

澪「バカ!!声がでかい!!!」

律「あ、わるい……」

律「んでも、なんでまた?」

澪「いや、実はさ……」

唯「なになに~~~なんの相談~~~?」

律「唯さんには関係ございません」

唯「ぶ~~除け者ヒドいよ~~~」



……放課後のいつもの光景、違うのはそう、澪の様子だけだった……

5:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:12:50.72 ID:hrlQBSWc0
梓に唯を押し付けて、私、田井中律は今日も澪の相談に乗った。
そう、澪の相談を真っ先に受けるのは、いつも私。

………『私』なのだ。


律「ここなら、誰にも聞かれないぜ?」

澪「別に女子トイレまで来る事ないだろ」

律「ムギは日直で遅れてたけど、聞かれたくないんだろ?」

澪「……ん、まぁな」

律「で、『ムギをむぎゅぅ』って、澪しゃんらしくない発言なんだけど」

澪「そ、その……むぎゅぅって言うか、好きって言うか……」



6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:18:59.89 ID:hrlQBSWc0
律「はいぃぃぃぃ!!!?」

澪「あああ、い、い、今のは違うぞ、いや違わないような……」

律「何なんだよ一体」

澪「だ、だ、だ、だから、むぎゅぅってのは、その愛情表現の1つで
  ……って、な、何言ってるか分かんないだろ、このバカ律!!!!」

律「何でいきなりバカになるんだよ!!」

澪「あ、ご、ごめん」

律「あ~もう、じゃ、澪はムギが好きだってのかよ?」

澪「う、うん……//」コクン


8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:25:15.28 ID:hrlQBSWc0
私は、ただただ驚いた。
もちろん澪がムギを好きになる理由なら幾らでもある。

でも、パッと思いついた理由だけでは、今の澪の表情までには至らないと思った。


律「い、いつから………だよ?」

澪「きょ、去年の文化祭くらいかな……」

律「はああああ、一年越しって訳ですか」

澪「い、いや……。まあ、で、でもいいんだ。このままでさ」

律「何で?」

澪「最後の文化祭前だろ?わ、私の個人的な理由で迷惑掛けたくないし……」

10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:32:36.09 ID:hrlQBSWc0
澪らしいと思った。
ああそうだ、まるで澪らしい。

だけど私は、それが分かっていながら、まるで正反対の言葉を投げ掛けた。


律「バッカじゃないの?」

澪「バ、バカとはなんだ!!私は真剣に……」

律「真剣なら、何で私達の迷惑考えんだよ?」

澪「……だ、だって」

律「ムギに告白しました。ダメでした。気まずいです。
  責任取って軽音部やめます。こんな風に考えてんじゃないだろうな?」

澪「そ、それは……」

律「やっぱりか」

12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:39:53.82 ID:hrlQBSWc0
律「あんな、澪。私達にしちゃ、そんなしょぼくれた顔で演奏される方が
  迷惑なんだよ」

私は一喝した。
もちろんトイレだから、大声は出さない。

澪「律……」

律「何の切っ掛けがあったのかは知らないけど、今日私に伝えてくれたのは、
  もう、ムギへの想いが溢れ過ぎてこぼれちゃったからだろ?」

澪「ん……」

律「だからさ、迷うなよ。応援するから」

澪「お、応援………してくれるのか?」

律「もっちろん!!この田井中律にまっかせなさい!!」
  

15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:47:06.72 ID:hrlQBSWc0
そんな安請け合いをして、私と澪は部室に戻った。
キーボードの音が扉越しに聴こえて来るから、日直だったムギも合流したみたいだ。

律「田井中班、ただいま戻りました!!」

唯「むっ、りっちゃん隊員、部室周辺の様子は!!?」

律「ハッ、特に異常無しであります!!」

唯「うむ、では引き続き任務にあたってくれたまえへ」ピシッ!!

律「ハハッ!!」ピシッ!!

澪「バカやってないで練習するぞ」

唯「ノリ悪いよ~~みおちゃ~ん」


16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 00:53:23.04 ID:hrlQBSWc0
平静を装っていたけど、澪は、キーボードと何やら格闘している
ムギを見ようとはしなかった。こりゃなかなかの難物だ。

律「まあ、澪の言う事も一理あるな。唯、今日位は真面目に練習するか」

梓「律先輩の言葉とは思えません」キリッ

唯「律先輩の言葉とは思えません」キリッ

律「お前らなあああああ~~~~」

紬「よし、出来たわぁ」

律「ん、なんだ?」

紬「今度の新曲の、『カレーはおかず』の音作りよ」

唯「ごはん……なんですけど」

17:そういや文化祭っていうより学園際か:2010/10/15(金) 01:01:29.55 ID:hrlQBSWc0
それから私達は、学園祭用に作った新曲『U&I』と、
カレー…じゃない『ごはんはおかず』を重点的に練習して家路に就いた。

ちなみに、練習中も澪はムギと一言も話さなかった。
普段から特別話し合っている2人でもないけれど、あんな話を聞いた後では
猛烈に意識してるようにしか見えなかった。


唯「んじゃ~、またね~」

梓「では、また明日」

紬「さようなら~」

律「おう、気を付けて帰れよ~!!」

澪「お前がな」

18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:10:22.52 ID:hrlQBSWc0
律「澪しゃん酷いです」

澪「本当の事だろ。こないだだって……」

律「あ~~、あの話はやめてくれ~~~~」

高校生にもなって、小学生のような失敗をした私の話をしようという澪に、
私はムギの話題に素早く切り替えた。

律「そ、そういや澪、今日、練習中全然ムギ見てなかったじゃないか」

澪「そ、そうか……な?」

律「話もしないしさ。やっぱり私が思ってる以上に澪って恥ずかしがり屋だよな」

澪「きょ、今日はたまたま話す事が無かっただけで……」

律「ていうか、その調子じゃ、告白までにどれだけ掛かるか」

澪「そ、それを応援してくれるんだろ?」

律「なんだよな~」

20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:19:46.39 ID:hrlQBSWc0
ため息混じりに言うと、私の見通しは暗かった。
何故なら、私だって応援出来る程、恋路に明るい訳じゃない。

ましてや、よく知る2人とあっては……。


律「作戦でも練るか」

澪「作戦?」

律「思うに、ムギって基本的に私達の事好きだろ?恋愛感情かは別としてさ」

澪「ん、まあ、そうだな」

律「だとしたら、後は切っ掛けだけだと思うんだよな~。
  何かちょっとした事で、ムギも澪一筋になれると思うんだ」

澪「わ、わたし一筋……///」

21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:28:16.98 ID:hrlQBSWc0
早速想像の世界で、澪はムギと恋のバカンス中だ。
これが表向きに出れば、良くも悪くも話は早いんだけど……。


律「そこでだ。私がさ、何とかしてムギと澪のデートプランを計画するよ」

澪「で、でででで、デートォォォォ!!!?」

律「……だって、告白するんだろ?」

澪「い、いや、まあ、そうだけど……」

律「一番手っ取り早いじゃん。ムード作ってさ~。夜の公園で抱き合って
  『愛してるよ、紬。』………なんてな~~~!!」

澪「ハッ……」ボッ!!

律「………しまった、妄想させ過ぎたか……」


23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:36:24.03 ID:hrlQBSWc0
妄想の世界から帰って来なかった澪と別れた後、
私は家で今日起こった事を反芻していた。

思えば、3年近くの高校生活で、一番衝撃的だった日かもしれない。


律「澪がねえ……」

ちょうど机にあった中学生の澪とのツーショットの写真を手に取ると
私はベッドに寝そべった。


律「バカ澪。気付いてないんだもんな……」

律「こっちは小学生からだっつーのに」


苦笑いをかみ殺した私の頬に、一筋の涙が伝った。


24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:45:51.37 ID:hrlQBSWc0
翌日、授業中はいつも通りの私達の時間。
ならばと、放課後、様子が違っていたのは他ならぬ、ムギだった。

予め『早めに部活に来てくれないか?』とムギに頼んでおいた私は、
唯や澪より先に部活の階段を上がる。

すると、今日は一番乗りなのだろうか、ピアノの音が部室から聴こえて来た。

律「なんだ、クラシックか~?」

私は部室の扉を開けた。
部室の中で独り、ムギが物悲しそうな曲を奏でていた……。



25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:52:17.32 ID:hrlQBSWc0
一曲が終わった所で私はやっとムギに声を掛けれた。
それほど真に迫っている演奏だったのだ。

律「ムギ……いいか?」

紬「あ、ごめんなさい。ちょっと夢中になっちゃって」

律「今の、何て曲なんだ?」

紬「『ベートーベン』の『テンペスト』という曲なんだけど……。
  旋律がとても綺麗で、大好きな曲なの。」

律「はぁ、さすがムギだな。クラシック弾けるんだもんな~。」

紬「そんな事ないわよ~」


27:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 01:59:25.27 ID:hrlQBSWc0
聴き慣れないものを聴いたからか、しばらく私達はお互い話せなかった。
そんな中、ムギがやはりと言うか、こう切り出して来た。

紬「りっちゃん、とりあえずお茶にしましょうか?」

律「あ、待ってくれ。呼び出したのにはちゃんと理由があるんだ」

紬「そう?」

律「うん。……あのさ、実はお願いがあるんだけど」

紬「りっちゃんのお願いなら、どんと来いっ」フンッ!

律「……いや、そこまで気合入れなくても、実は澪の事でお願いなんだけど」

紬「澪ちゃん?」

律「うん。澪の奴さ、ムギとデートしたいって言ってるんだよ」

29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:05:31.89 ID:hrlQBSWc0
直球過ぎるこの物言いでもムギは断らない、私には確信があった。
果たせるかな………ムギの返事は明るかった。

紬「本当に!?」

律「ダメ……かな?」

紬「いやいや、全然オッケーです!!もちろん大丈夫です!!」

律「そ、そうか。じゃあ、澪にも言っとくな」

紬「まさか澪ちゃんから誘ってくれるなんて思わなかったわ~」

律「直接自分で言えって言ったんだけどな~。まあ、澪だし」

紬「ううん、嬉しいわ。ありがとう、りっちゃん」

律「べ、別に、礼を言われる程じゃないぜ……///」

30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:12:56.86 ID:hrlQBSWc0
その後、澪達が合流してからの放課後の部室は、いつにも増して明るかった。
ムギの入れてくれた紅茶が、今日は特別に美味しい。

なるほど、ムギも澪の誘いに素直に喜んでいるようだ。
もちろんムギが受け入れてくれたのは、恋愛感情なんかとは別の物が働いてだ。
それは、3年近く一緒に過ごして来た私が一番よく分かってる。

それでも、事実が大切なのだ。
澪はやれば出来るんだから。


そう、澪はやれば出来る。


放課後、私は澪に、ムギとあった事実を伝えた。

32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:19:14.52 ID:hrlQBSWc0
律「というわけで、ムギは全面的にオッケーしてくれました、りっちゃん偉い!!」

澪「あ、あ、あ、あわわわわわわ……/////」

まあ驚くだろう。
知らない間に、自分が誘った事になってるんだから。

律「澪ちゃ~ん、どうしましたか~?」

澪「バ、バ、バカ律!!!!もうちょっと、言葉を選んでだな!!!」

律「最終的には『デートしてくれ。』って言うんだからいいじゃん」

澪「うぅぅ……」

律「デートコースぐらいは考えても良いけど、後は澪次第だぜ?」

澪「わ、分かったよ……」

33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:28:48.98 ID:hrlQBSWc0
悩める澪と別れて、私は夕食もそこそこに、今日もすぐさまベッドに寝そべる。
疲れが一気に吹き出して来た。

慣れない空気に、私の身体も相当参っていたようだ。
今日はこのまま寝ようかと思うと、携帯のメールの着信音が鳴った。


澪だった。


『今度の日曜日、駅前に10時で話付けたから、後は何とかしてくれ!!』


なんていう一方的なメール。


律「誰がデートするんだよ」


私は簡潔に『わかったわかった、おやすみ~~』と返して携帯を手放すと
そのまま眠りに落ちていった。

35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:37:15.71 ID:hrlQBSWc0
土曜日の午後、私は澪の部屋に居た。
当然、明日の作戦会議だ。

まず、私はムギと2人で遊びに行った時の事を澪に話した。
駄菓子屋なんて使えないとは思うが、何かの参考にはなると思ったからだ。

律「要するに、ムギはオシャレなモノより庶民的なモノの方が喜ぶんだよな」

澪「それは私だって分かってるよ。だから何にするかって話だろ?」

律「お前、自分で考える気無いだろ?」

澪「律の手だって借りたい状況なんだ、私は」

律「へいへい」

そうして私達は、インターネットや、コンビニで買って来た『桜ヶ丘ウォーカー』
を見ながら、同じようなやりとりを何回も繰り返す。

結局、大方のルートが決まったのは、夕方になってからだった。

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:46:05.89 ID:hrlQBSWc0
そのルートは至ってシンプル。
外の情報を得なくたって、考え付くようなプランだった。

それでも、私にはある種の達成感があった。
まあ、澪はまだ納得してないようだが。

律「よし、じゃこの手筈で行くか!!」

澪「大丈夫か~?」

律「大丈夫大丈夫。さっき電話したら、まだチケットあっただろ?
  残り2枚だったなんて、運がいいぜ~。」

澪「それが心配なんだよなぁ。何でロックのライブがデートに入るんだよ……」

律「軽音部だから」

澪「何か私は、とんでもない過ちを犯そうとしているんじゃないだろうか……」

律「ええい、ここまで来てウジウジするな!!
  そうだ、今日は景気付けにカラオケでも行こうぜ!!」

澪「い、今からか!?」

律「今からです」

澪「はぁ……強引だなあ、律は……」

38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 02:55:53.15 ID:hrlQBSWc0
なんて言いながら、行ったら行ったでマイクを離さないのが秋山澪だ。
今日も多分に漏れず、私は澪のリサイタルを聴かされた。

それでも誘った事を後悔はしない。
帰り際の澪の顔が、晴れやかだったからだ。


そして、こうなった時の澪は口調も軽く、次から次へと話し掛けて来る。
話題は、明日のムギとのデートの事だ。

独りで話しては、独りで盛上がる澪のパターン。
私は、帰り道、それと気付かれない作り笑いを浮かべ、相づちを打つだけだった。



40:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 03:07:04.20 ID:hrlQBSWc0
日曜日。
この日がやってきた。

主役でもない私は、朝の7時に目を覚ました。
やけに目覚めはハッキリとしているが、身体は重い。

たった3日間で、私は1学期分は歳を取ったかもしれない。

気付けに頬を何度か叩いて、声を出す。
少しは身体に力がみなぎる気がした。


閑話休題。


初めは澪の後を付けて行こうかなんて考えたけれど、それは野暮ってもんだ。
いくら長い付き合いでも、侵してはならない領域がある。

それに気付いた私は、今日一日、家で大人しくしている事にした。

41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 03:16:29.28 ID:hrlQBSWc0
8時、9時、時計の針が進むごとに、何故か私が緊張する。
予定の10時を迎える時には、意味も無く携帯を強く握り締めていた。


そして10時を過ぎて20分程した時に、澪からのメールが届いた。
私は慌てて内容を確認した。


『ムギと合流、移動中~。やっぱ私服のムギ可愛過ぎ!!』


ご丁寧に絵文字で装飾されたメールを見て、私は胸を撫で下ろした。
とにもかくにも、デートは始まったのだ。

それでも、能天気な澪に、釘を刺すように私は

『デート中にメールばっかするんじゃないぞ』

と送り返した。

42:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 03:23:29.15 ID:hrlQBSWc0
私の返信の後、澪はプランの切り替わりの時にだけ、報告のメールを送って来た。


まずは昼食だ。


『律の選んだそば屋、正解だった。ムギ喜んでる~。
 そば湯を飲むのが夢だったって~~。』


さすがに私は笑った。
実にムギらしい。

と同時に、まずまず雰囲気が良さそうなのも確認出来た。
このまま上手く事が運んでくれれば………。


ひとまず携帯をベッドに置いて、私も昼食を取る事にした。

43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 03:43:21.50 ID:hrlQBSWc0
昼食を終えて部屋に戻ると、私はメールが届いていないかと携帯を見る。
着信は無かった。

昼食の後の次の予定は『桜ヶ丘水族館』だ。

まあ、ここはそこそこ時間が掛かるし、しばらくは何もないかとベッドに腰掛けると、私は携帯を枕元に置いた。


律「ねむい」


順調な現状に安堵したせいだろう、途端に眠気が襲って来た。
考える間もなく枕に頭を預けると、寝まいとする心より睡魔が勝って私は目を閉じる。

そしてそのまま、私は眠りに就いた。
僅かばかりの自責の念に駆られながら……。

45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 04:01:01.68 ID:hrlQBSWc0
がばっと大きく身を起こして私が起きた時、時間はもう5時だった。

この分だと『水族館』はもとより、次の『デパート巡り』も終えて
『ゲーセン』の時間だ。

『駄菓子屋』は無いが、『ゲーセン』なら良いだろうと思って組み込んだ。
やってなかったゲームもあったし。

はてさて、考えるのも良いが、私は手早く携帯を確認した。

着信メールは3件だった。
記念写真という事で撮ったのだろう、最初のメールは画像付きだった。


『マンボウの前で、ムギマンボウ。カワイイ(笑)』

『りつ~、ムギが屋上の子供用のおもちゃに乗りたがるんだよ……
 さすがに恥ずかしいぞ……』

『りつ~、何か、ありがとな~。ウマくいくかも……』


律「楽しそうにしやがって、こいつ~」


順調過ぎる成り行きに、思わず苦笑いの私は、
『浮かれて最後にコケるんじゃないぞ!!』とだけメールを返した。

47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 04:14:51.42 ID:hrlQBSWc0
『ゲーセン』の時間も、私は2人を想像の中でしか描けないが
恐らくは何の滞りも無く進んでいる事だろう。

さて、今日の締めくくり、桜ヶ丘会館で行われるライブは午後7時からだ。
そこそこ名の通ったメジャーバンドのワンマンライブで、
当日券が手に入ったのは本当に偶然だった。

いや、2人の仲を取り持つ『必然』だったのかもしれない。


そんな事を考えてセンチメンタルでも感じたのか、
私は、そっと窓に目を向けると、雨の降り始めに気付いた。


律「そういや台風近付いてるんだっけ。」


私は、窓の鍵の締まっているのを確認すると、カーテンを閉めた。
今はただ静かに、雨と風が、窓を揺り動かし始めていた……。

59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 14:33:56.64 ID:hrlQBSWc0
午後7時。
予定通りならライブの開演だ。

澪達はちゃんと入場出来ただろうか。
急ごしらえで取ったチケットに、要らぬ心配をしてしまう程、私は落ち着かなかった。

いや、落ち着かない理由はそれだけじゃない。


律「この曲、リズムせわしなさ過ぎっ」


気持ちを落ち着けるのと、少しでも澪達と関わりを持とうと思い掛けていた、
今日出演するバンドのCDが、逆効果だったようだ。

私はものの10分でCDを止めて、それをCDケースに戻すと、
こういう時は、逆に受験勉強でもして、気を紛らわせるのが一番なんて、
普段の私からは、想像も付かない衝動に駆られていた。

『どうかしてるな。』と口元を緩めると、私は机の椅子に腰掛けた。



60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 14:41:36.97 ID:hrlQBSWc0
机に向かってから1時間、つまり開演してから1時間。
雨音と風音は、次第に強くなっていた。

それが無性に耳について、今まで珍しくはかどっていた受験勉強への意欲を遮る。

シャーペンのノートを滑る音が、無意識に耳に入る位、
部屋が静か過ぎるのもあったのだろう。

私は、その張り詰めた空気に耐えきれなくなって、シャーペンを放り出すと、
椅子の背もたれに背中を預けた。

律「まだ半分くらいかなぁ」

そのままの状態で、大きく伸びをすると、
ふいに床に転がっていたドラムスティックを手に取り、参考書をドラムに見立てて
ダブルストロークの練習を始める。

こういう時は、切り替えの早い私らしく、既に受験勉強なんて
どこ吹く風といった塩梅で、スティックに集中していた。

律「まだちょっと甘いなぁ。梓に怒られるぞ、こりゃ」

その勢いで、新曲のリズムに納得いかなかった事を思い出した私は、
とうとう机を離れて、本格的にドラムパッドを敷いて練習を始めたのだった。


61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 14:50:53.76 ID:hrlQBSWc0
午後9時。
アンコールの最中ぐらいだろうか。

まだドラムスティックを握り締めていた私は、
ここで始めてスティックから手を離すと、枕元の携帯を手に取った。

メールが届いてないかと、問い合わせをするが、もちろん着信は無い。

律「みお~、まだかぁ?」

意味も無く携帯を揺すると、ふいにお腹の虫が鳴る。
そう言えば、晩ご飯も食べてなかったっけ………。

なるほど、切り替えが早い私は、携帯を持って立ち上がると、
早速キッチンに向かうべく、部屋を出た。


62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 15:03:28.75 ID:hrlQBSWc0
家人の話では、ここ数日の私の様子がおかしい事には、とっくに気付いていて、
ならば、そっとしておこうと、夕食時になっても呼ばなかった、との事だった。

確かに、ありがたいんだけど、そこまで放っとかれると、少し淋しい気もした。

まだ台所で洗い物をしていた母と、二言三言会話を交わすと、
私は晩ご飯だったカレーを温め直して頬張る。

まるで私の居た部屋とは別世界のように、母の食器を洗う音、父の見るテレビの音、
漫画に没頭している聡の、時折聞こえる笑い声………。


私だけが、非現実と現実の境に、切り取られたような存在に感じられた。


63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 15:16:37.11 ID:hrlQBSWc0
家を揺する雨風の音は確実に増している。
暴風域が近い事を感じさせる。

もっとも、父の点けたテレビから聞こえて来た情報によると、
私の住む地域はかすめるだけ、との事だったから
明日の朝には通り過ぎているだろう。

晩ご飯を食べ終えると、私はすぐに部屋に戻った。
この場でくつろぐ事を体が拒否しているようだった。

そう、澪は今戦っているんだ。
私だけが悠長に構えていい訳が無い。

そんな自分ルールのような縛り付けで、己を納得させると
9時半も過ぎた頃、押し黙っていた携帯に、一通のメールが届いた。


64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 15:30:02.98 ID:hrlQBSWc0
律「澪!?」

私はすぐさまのメールを確認する。
間違いなく澪からのメール。

一瞬にして、私の胸が高鳴った。
………それでも内容を見ると、大山鳴動して鼠一匹とでもいうか、

『ライブ終わった~!!!サイコ~~~~~!!!!!』

と、今日一番の、これでもかと言わんばかりに絵文字で装飾されたメールだった。
肩の荷が下りた気持ちの中に、何ともやるせない気持ちが入り混じった
私だったが、返信のメールを打つ手は早かった。



65:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 15:42:16.29 ID:hrlQBSWc0
律「『良かったな。ってか、こっから本番だぞ。気合入れろよ!!』っと」

私は送信ボタンを押すと、額に手の甲を当ててベッドに横たわった。

後は、もう告白だけだ。
こればかりは、神のみぞ知る所………。

私には何も出来ない。
だから私は精一杯澪を応援する。

澪、頑張れよ!!
澪、頑張れよ!!

律「みお~~~~!!頑張れよ!!」

聞こえるはずも無いのに、私は大声を出したのだった………。


66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 15:53:52.37 ID:hrlQBSWc0
それから私は、携帯を壊れるんじゃないかと思う位強く握り締めて、
澪の返事を待った。

告白するのは澪なのに、私が一番緊張しているようだった。

窓の外は雨風が強い。
公園での告白は厳しいだろう、だったらどこだろう?
ライブ会場?帰りの駅校舎?まさか学校までは行かないだろうけど………。

錯綜する想いに胸を高鳴らせて、ただ澪の返事を待つ。

10分、20分といたずらに時間が過ぎて、私の携帯が着信音を鳴らしたのは、
午後の10時を、少し過ぎた頃だった………。



67:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 16:08:02.59 ID:hrlQBSWc0
違和感を感じたのは、メールじゃなくて電話だった事にだろう。
『電話での返事』というだけで、私は不安で一杯になった。

数コールの躊躇いを経て、私は意を決して通話ボタンを押す。
悲しい事に、私の想像は現実のものとなってしまったようだった。
通話状態になっても、澪は何も話し掛けて来なかった。

律「みお………?」

返事は返って来ない。
これだけで快い返事を得られなかったのは分かるが、
この時私は、告白の結果云々より、澪の事が心配だった。

律「澪!!澪、大丈夫か!?」

澪「り………つぅ………」

雨に消されそうな、か細い声で、澪の声が聞こえて来る。
さっきまでのメールは何だったんだろう。

今の澪は、電話越しにも消え入りそうなのが、手に取るように分かる。
同時に私は、ムギに静かな憤りを覚えていた。

69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 16:22:20.23 ID:hrlQBSWc0
律「澪!!しっかりしろ!!今どこなんだよ!?」

澪「………うちのちかく」

私はすぐさま駆け出した。
着の身着のままで、携帯だけ握り締めて家を飛び出ると、
傘を差す事も忘れて走り出す。

家の近くなら、すぐそこに澪が居る!!
私は走った。
バカみたいに雨に濡れながら………。

いや、バカでも良いか………。
電話越しに聞こえて来る、雨音と、澪の耐え忍ぶ泣き声を聞くと、
そう思う事こそが、むしろ自然だったのだ。


70:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 16:34:19.91 ID:hrlQBSWc0
走り出してからの数分で、現在地を聞く事もなく、澪の姿はすぐに見つかった。

律「みお………」

街灯の下で風雨に晒されながらうなだれる澪を見て、
事態の深刻さに気付いた私は、力無く問い掛ける。

雨音に消されたか、私はもう一歩踏み出して、澪の傍に寄った。

律「みお」

同じ街灯の下まで来て、再度私は、声を掛けた。
聞こえない訳はない。

それでも、返事は返って来なかった。
だから、私はもう一度呼びかける。

その時だった。

律「み………ぉ!?」

ふいに、雨に濡れてひとかたまりになった澪の黒い髪が、私の目の前を舞った。
そう、澪が私に寄りすがってきたのだ。

澪「りつぅ………りつぅぅぅぅ………」

私より背の大きい澪が、嗚咽を漏らしながら私の胸に顔を埋める。
体中に、澪の泣き声が響くようだった………。

72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 16:54:46.76 ID:hrlQBSWc0
こんな事態に私は冷静を装うと、澪を自分の家まで連れて帰った。
なぜ澪の家にしなかったのかは分からない。
『本能』だったのだろうか?

とかく、このままでは2人揃って風邪を引く。
入れ替わりでシャワーを浴びると、私は澪がシャワー浴びている間、替えの下着と、
間違って買った、サイズが大き過ぎて使えないカットソーを用意した。

律「澪………この服着て良いからな」

浴室越しに「うん。」と、か細い返事が返って来て、
私は僅かばかりながらも、心が落ち着いた。

それに合わせて母親が、「澪ちゃん大丈夫?」と声を掛けて来たが、
恐らく今の澪は、私以外の誰とも接したくないだろう。
自惚れでも何でもなく………。

私は「大丈夫だよ。」と母に返した。
同じ女だから私の気持ちが分かるのか、母も納得すると、リビングに戻って行った。
「澪ちゃんの家には、お母さんが連絡しておくね。」と付け加えて………。


74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 17:10:55.09 ID:hrlQBSWc0
私の大きめの服は澪にはちょうど良く、
この非常事態に、部屋で待っていた私は思わず感嘆の声を上げた。

律「………落ち着いたか?」

澪「うん、ちょっと………」

シャワーを浴びて、真っ赤だった目だけは晴れていた澪は、私のベッドに腰掛けた。
向かい合って私は床に座る。

しかし、こういう時こそ言うのだろうな。

『何て声を掛けていいか分からない。』

向かい合ってもお互い視線を逸らして、
さっき湧いた自惚れた自信は、もう吹っ飛びそうだった。

私は、話し掛ける言葉とその先を、何通りにもシミュレーションする。
もちろん、正解と思えるアイデアは浮かばない。

ところが、そんな空気を破ったのは意外にも澪だった。

76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 17:22:54.12 ID:hrlQBSWc0
澪「律………私な、フラれちゃった」

自暴自棄気味に澪が笑う。
こうも簡単に結末を教えられると、私も、余計に何を言って良いか分からなくなる。

しかし、澪は続けた。

澪「『ごめんなさい。』って」

澪「変だよな………。何で、あんなに楽しそうだったのに、
  『ごめんなさい。』なんだろうな?」

澪「私、分かんないや………」

律「澪!!」

今にも泣きだしそうになった澪に、私は素早く近寄る。
が、遅かった。

澪「りつぅ、私、何がダメだったんだ!?なあ、何がダメだったんだ!?」

この言葉を最後に、澪は顔を手で押さえて、また泣き崩れた。
近付いただけで、私にこれを抑える言葉が見付かるはずもなかった………。


77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 17:39:55.75 ID:hrlQBSWc0
だから私は、澪を抱き締めた。
さっきの雨の中と同じだ。

澪の顔を、私の腕の中に優しく包み込んで、私は澪を抱き締める。
突然の事に、澪は一瞬泣き止んだが、これ以上無い安心感を得たのだろう、
すぐさま、私の胸の中で、流し足りない涙を延々と流し続けた。


律「澪………頑張ったな。」

澪「りづぅぅ………」

澪が声を絞り出す。
私の全神経に直接響く、澪の声。

私はこれ以上声を掛けなかった。
泣き止むまで、ずっと澪を抱き締めた。

私の心は、不思議と落ち着いていた。
泣き続ける澪を抱き締めて、幸せさえ感じ始めていた………。


81:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 18:19:25.39 ID:hrlQBSWc0
日付が月曜日に変わる頃には、澪はもう泣き疲れて眠っていた。

まるで自分の家のように振る舞う澪に、
「しょうがねえなぁ。」なんて言葉を出して、掛け布団を掛けてあげると、
私は、ベッドに背もたれて、天井を眺めていた。

思い浮かぶのは澪とムギと………。

律「テンペスト………か」

ふいにムギの弾いていた曲を思い出す。
思い出すだけで、何故か、この場を慰める旋律に聴こえなくもない。

律「澪にも私にも、『嵐』のような一日だったな」

視線を天井から落とすと、私は澪の顔を見た。

律「人の気も知らずに、ぐっすり寝やがってよ」

私は眠っているのを良い事に、澪に悪態をつく。
が、それもそこまで。

私の中でせき止めていたものが、急に崩壊したのだ。

律「バカ澪がぁ………」

恐らく気付かぬ間、ずっと耐えていたのだろう。
積み重ねて来た想いの決壊で、私の目からは、止め処なく涙が溢れ始めていた。

もう嵐は、過ぎ去ったようだった………。

83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 18:29:57.16 ID:hrlQBSWc0
ベッドに背もたれて眠ってしまった私は、深い夜の中、目を覚ました。

夢でも見れれば気が紛れたかもしれないのに、つい今しがたの事のように
昨日の事を思い出す。

大きくため息を吐いて、私は部屋の蛍光灯の灯りを点けっ放しなのに気付いて
扉の側にあるスイッチを消しに行った。

すると、澪が寝言で「バカ律。」なんて言うもんだから
私は灯りを消すや否や、澪の頭を小突いた。

「うう………」と苦悶の表情を浮かべる澪に、私はしてやったりの表情。

そして、もう一度同じベッドの傍に腰掛けると、私は目を閉じた。


86:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 18:44:57.16 ID:hrlQBSWc0
目を閉じながら、私は密かにある決心をしていた。
寝ぼけ眼で後から後悔するかもしれない。

でも今しかない。
私は目を見開いて、澪に背を向けたまま独り言を言い始めた。

律「みお、聞いてるか~?」

返事はなかった。

律「よし。じゃ、よ~く聞けよ。」

今の私はとてもズルい。
失恋してすぐの相手に投げ掛けるような言葉を言う気など、更々無いのだ。
それも眠っている時に言うなんて………。

だが、私は言葉を続けた。


88:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 18:54:31.39 ID:hrlQBSWc0
律「みお、みお………あのなあ………」

いざとなると、その先の言葉が出ない。
思えば私は、澪に何て事を課したのだろう。

いざ自分の段になって分かる。
これは、一世一代の大勝負だ。

眠っている相手にすら、こんな状態なんだから、澪の勇気たるや………。


私は澪に謝りたくなった。
だから、振り返って、眠っている澪の顔に自分の顔を近付けた。

そして言う。
澪が起きてしまわないよう、小さな声で………。

律「みお、ごめんな………本当にごめん」

言ったが最後、また私の頬を幾筋もの涙が伝った。

何度も目頭を手で拭うが、溢れる涙はとどまる事を知らず、
結局私は、今の自分の気持ちを素直に受け入れるしかなかった。

89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 19:11:29.49 ID:hrlQBSWc0
そうさ、『謝った』『気持ちの整理は付いた』、ならもう行動だ。

律「みぉ、起きてるか~?」

鼻声で開き直った私が言う。
返事は、また返って来なかった。

律「よぉし………」

固い決意のもと、私は澪の耳に自分の口元を近付ける。
そして、今度も澪が起きてしまわないよう、そっと囁き掛けようとした。

律「みぉ………」

伝えたい言葉が引っかかる。
勇気を出せ。
澪は、もっと頑張ったんだ!!

唇を噛み締めて、私は伝える。
小学生から、これまで押し込めて来た気持ちを。

ずっとずっと、仕舞い続けて来た想いを………。


律「みお………だいすきだよ………」


澪は眠っていた。
私は、澪の耳に軽く口づけすると、人知れず想いを伝えたのだった………。


90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 19:23:52.07 ID:hrlQBSWc0
台風一過、月曜の朝は雲1つなく晴れやかだった。

私は澪に学校を休むように勧めたが、澪は聞かなかった。
それもそのはず、澪の顔も、まこと晴れやかだったのだ。

泣きじゃくって、全てを流し落とせたのだろうか。
だとしたら、うらやましいと言うか………。


一度自宅に戻る澪を見送り、私は朝食を摂る。
学校への身支度を済ませると、澪の家に向かった。

律「澪」

澪「おぉ、律。行こうか。」

いつもの澪だ。
ロングストレートの黒髪に、少しお高く止まったように見せてしまうつり目、
私の知っている、私の大好きな『秋山澪』だった………。


92:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 19:37:22.45 ID:hrlQBSWc0
何喰わぬ顔で、ムギも学校に来ていた。
いつものあの笑顔が、今日はやけに恨めしい。

はやる気持ちを抑えて、私はムギが一人になるのを待つ。

そして学校で私が取ったムギに対する行動は、
もちろん『体育館裏に連れ込む』などではなく、
こないだと同じように、早めに部室に来てもらう事だった。

それが決まってからと言うもの、授業なんか頭に入らない。
唯達のおちゃらけすら軽く流せない私がいた。

そうして、ムギへの怒りとも辛みとも分からない情念を募らせていると、
あっという間に放課後の予鈴が鳴り響いた。


93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 19:42:36.99 ID:hrlQBSWc0
放課後、日直の仕事を唯に押し付けて、
私は真っ先に教室を出て、いつの間にか居なくなっていたムギを追う。

廊下を走って、階段の取っ手の飾りの亀を意味も無く叩き、
さわちゃんに叱られる。
それでも止まる事なく、私は部室への階段を駆け上がった。

『ムギは、ここで、そこで、何を思っていたのか?』
『どうして澪をフッたのか?』


やっと聞けるはずの答えを目の前にして、私の足が止まるはずがない。

階段を駆け上がり、息を切らせて部室の扉の前に着いた時、
今日もあの旋律が流れて来た………。


95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 19:53:01.41 ID:hrlQBSWc0
律「ムギ!!」

今度は曲中だろうが遠慮しない。
私は豪快に扉を開けると、先週の金曜日と同じように
『ベートベン』の『テンペスト』を奏でるムギに駆け寄った。

しかしムギは素知らぬ顔で弾き続ける。
益々腹が立った私は、口角泡を飛ばす勢いで、ムギに怒鳴りつけた。

律「ムギ!!何でっ、何でなんだよ!!?」

鍵盤越しにムギの顔に自分の顔を近付ける。
まだムギは私に目をくれない。

続けて怒鳴った。

律「澪な!!泣いてたんだぞ!!!!」

これまで親友だったはずの相手に、なぜこんな罵声を浴びせられるんだろう。
自分でも理解出来ないくらいの二律背反な迷いが生じる。

しかし、それとは裏腹に、私はムギの演奏する手を掴もうとした。

そして、その時だった。
これまで流暢に旋律を奏でていたムギの演奏が、突如乱れ始めた。


96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:02:51.51 ID:hrlQBSWc0
乱れ始めた演奏は、立て直される事のないまま、
私が手を掴むまでもなく、ムギは演奏の手を止めた。

これでやっと話が出来る。
私は無造作に、うつむいたままのムギの右手を掴むと、こう言った。

………いや、言うはずだった。

というのは、私が右手を掴んだ時、鍵盤の上に零れ落ちる涙を見付けたからだ。

律「ムギ………?」

思えばムギの涙なんて初めて見たかもしれない。
私は途端に狼狽して、掴んでいたはずのムギの右手から手を離した。

私の怒気が薄れるのを、感じ取ったのだろうか。
そこで、やっとムギが私に話し掛けてくれた。


97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:13:41.11 ID:hrlQBSWc0
紬「私だって私だって………」

肩を小刻みに震わせて、泣いている事は隠さないムギは、
拳を強く握りしめて、顔を上げた。

そして放たれる、私の胸を深くえぐる言葉………。


紬「澪ちゃんが好きよ!!!!」


その言葉だけに全てのエネルギーを蓄積したのだろうか、
そう言い放ったムギは、両腕で鍵盤の不協和音を奏でて、
鍵盤の上で突っ伏して泣き崩れた。

もう、誰が見ても分かる号泣だった。


そこまで追い詰めて、私は、はたと気付く。

そうだ、私はムギの事をちっとも考えていなかった。
これ以上ない程ムギを悲しませて、私はやっとその思考にまで辿り着いたのだった。

99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:20:46.54 ID:hrlQBSWc0
ムギは強い。
突っ伏したままでこそ居たが、ここが部室という事を理解しているからか、
すぐに涙を止めた。

涙を止めた訳だって、さっき気付いた理由と同じ。
というより、私自身が澪に言った言葉通りなのだ。

『ムギって基本的に私達の事好きだろ?』

そう、ムギは『皆』が好きなのだ。
それは誰か1人に与えられる愛情ではない。

この鍵盤の上で泣き崩れた『琴吹紬』は、そういう女性なのだ。

律「ムギ………ごめん」

私は澪の時と同じで、ムギに素直に頭を下げた。
ムギもまた、1人の人間の求愛を受けて、苦しんでこの場に居たのだ。

101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:32:46.97 ID:hrlQBSWc0
頭を下げた私に、ムギは顔を上げてくれた。
顔を上げたムギは、目を腫らしていても、いつもの笑顔で、私に微笑みかけてくれた。

そして「もう少しで皆来ちゃうね………。」と前置きして
ムギは、昨日の事を話してくれた。

お昼のそば屋の事、水族館での事、ゲーセンでの事
最後にライブの話をしてくれた所で、ムギはまた涙を堪えているようだった。

私は「ありがとう。」とだけ言って、もうそれ以上は聞かなかった。
多分これ以上聞いたら、私も涙を流してしまうかもしれないから………。


すると、まるで計ったかのように、唯達の能天気な話し声が聞こえて来た。
まあ、聞かれてはいないだろう。

私は、もう一度ムギに「ありがとう。」と言うと、ドラムセットに歩み寄った。


103:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:40:25.18 ID:hrlQBSWc0
澪とムギの2人は、バンドの演奏で、昨日の一件の影響を微塵も感じさせず、
それどころか、逆に練習したつもりの私が、梓にダメ出しを喰らう始末だった。

唯が「りっちゃん、今日はお腹空いてるね?」なんて的外れな事を言って、
教科書通りのティータイムになると、もう練習なんてそっちのけで、
結局帰るまで、いつもの放課後『ティータイム』だった。

もっとも、澪とムギが会話を交わす場面はなかったが………。
とはいえ、私だって斜に構えてしまうんだ。
今まで通りの『ティータイム』に戻るには、それなりに時間が掛かるだろう。


そうして、放課後の放課後を迎えると、私達は揃って家路に就く。

いつもの信号機の前で、私達はお互い別れを告げて、「また明日。」と手を振る。
私と、帰る方向が一緒の澪は、2人揃って皆を見送る。

夕日で長くなった皆の影が消えかけた時、
私は澪に、今日のムギとあった事を話そうと思い立った。

今度は誰も泣かせないように、と胸に誓いながら………。


104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:45:07.98 ID:hrlQBSWc0
「澪、ちょっといいか?」で、私は澪を近くの公園まで引っ張った。
夕日が落ち掛けるこの時間、子供達も手を振り合って『今日のお別れ』をしている。

次第に人もまばらになり、私は誰も居ない公園のベンチに腰掛けるよう澪を促した。

律「何か飲む?」

澪「まだ飲むのか?」

良かった、いつもの澪の調子だ。

律「そういや、もう紅茶腹だったな。」

澪「だろ?」

私も澪の隣りに腰掛けると、お互い笑い合った。
昨日出来なかった事が、まるで遠い昔のように懐かしい。

澪の笑顔が今の私を一番笑顔にしてくれる。

『ああ、やっぱり私は澪が大好きなんだな。』

たったこれだけなのに、そう思えるのに十分過ぎるやり取りだった。


105:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 20:52:26.09 ID:hrlQBSWc0
だからか、この空気を壊してしまうかもしれないのが、怖かった。
それでも、恐る恐る、私はムギの事を口にしようとした。

律「澪。きょ、今日さ………」

ここに来てもおじげづいた私は、言葉に詰まってどもってしまう。
だけど、私のどもり方を見て、澪が私の言わん事に気付く。
澪の表情が少し強張ったのが分かった。

ただ、私は、なおも頑張って話を続けようとする。
しかし、それを遮るように澪が言った。


澪「律。何も言うな」


語気は強いが、澪は笑顔だった。
そう、澪も私と同じ結論まで至っていたのだ。

すると、澪がもう一度私を呼んだ。


106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 21:00:29.99 ID:hrlQBSWc0
澪「律」

律「なんだ?」

ひと呼吸置いて、澪が言った。
私の息の根を止めるような事を………。

澪「人が寝てるのを確認するのは、もっと違う方法がいいぞ」

律「えっ!!?」

私は比喩でも何でもなく、本当に心臓が止まりそうだった。
そんな私を尻目に、澪が続ける。

澪「………でも、律の本音が聞けて嬉しかった。なぁ?律」

律「ま、待ってくれ、あれはその………」

澪「冗談とでも言うのか?」

律「いや、その………」

私は耳まで真っ赤になった顔を伏せた。


107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 21:07:29.84 ID:hrlQBSWc0
澪「りぃつぅぅぅ。そんな冗談は許さないぞ」

律「ご、ごめんなさい」

澪「私だって、勇気出して言ったんだ。だから律もな?」

律「え、ええ!!?」

飛び上がる程驚いた私は、澪の期待の眼差しを見ると、
「昨日言ったし。」なんて軽口も叩けなかった。

澪「ほら、律」

澪が私の手を取り、向かい合うよう促す。
私は、されるがまま澪と向かい合った。


110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 21:14:03.16 ID:hrlQBSWc0
澪「うん、いいぞ、律」

律「いいぞって………」

「物事には順番があるだろ。」って言いたくなったが、
『夕暮れの誰も居ない公園』
『向かい合う2人』
そう、舞台は仕上がっているのだった。

お互いの呼吸すら分かる程近付いて、私は澪の目を見て固まる。
すると、澪が先に焦れて

澪「は、早く言ってくれないと私が恥ずかしいじゃないか!!」

と言った。

律「う、うるせー!!」

心の準備がまだなんだよ、こっちは………。
でも、もう後には引けないか。

私は、意を決して言う。


112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 21:24:01.39 ID:hrlQBSWc0
律「澪。あ、あの………」

知らぬ内に私は、澪の両手を強く握り締めていた。
汗ばんだ私の両手が、澪の手を湿らせる。
………どれだけ私は緊張してるんだよ。

澪「うん………」

来る答えが分かっているのに、お姫様のように目を輝かせる澪。
もう言え、言っちまえ!!

律「あ………だ」

澪「うん」

律「だ、だ………」

澪「うんっ」


律「だいすきだ!!!!!!!」


澪「うん!!!!」

大きく頷いた澪が、一生分とも思える笑顔をくれる。
そして、力が抜け切った私は、その余韻に浸る間もなく、
それがさも当然のように、自然と澪の顔に自分の顔を近付けていた。

察したのか、澪が目を閉じる………。

113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/10/15(金) 21:28:26.73 ID:hrlQBSWc0
暮れ行く夕日の中、私達は唇を重ねた。
何にも負けない、私達が描く最上の一枚絵………。

お互いの柔らかい唇の感触が離れると、
照れ隠しにうつむいた澪が、上目遣いで言った。

澪「律、柔らかいのな」

律「み、澪だって」

澪「律………」

もう一度、今度は澪から口付けて来る。
私が受け入れる形で、一枚絵の再現。

律「澪、大好きだよ」

唇を離して私が囁く。
大きく瞬きをした澪が、そっと囁き返してくれた。


澪「わたしもだ、律」






おわり
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